デザイン事務所がギャラリーを開設した理由
代表取締役 塩貝友崇 | 2026.10.04
はじめまして。株式会社ambientの塩貝です。これからこの場所で、仕事で考えたり感じたりしてきたことを書いていきます。初回は、設計とデザインの事務所がなぜギャラリーを開設したのかをお話しします。
01
きっかけは2011年の震災
2011年に東日本大震災が発生しました。被災された方たちの大変なご苦労を、報道を通して知りました。もし同じ規模の災害が北海道で起きたらどうなるだろう。建築士として建物の危険度を判定する。炊き出しや片付けを手伝う。いや、自分自身も被災しているのだから、それどころではないのでは。いろいろと考えをめぐらせました。
壊れた街を立て直すのは、建物だけではありません。人と人がもう一度つながることが必要です。そのきっかけに、ものづくりが役に立つのではないか。そう直感しました。手を動かす人たちが集まり、つくりかたや素材の知恵を伝えあえば、そこに交流が生まれます。
02
十人十色のショップ兼ギャラリー
2012年にambientとして独立開業しました。掲げたコンセプトは「人、もの、コト(体験)をつなげる」です。店舗設計・デザインの仕事と並行して、同じ年に札幌の円山エリアでMaruyama Gallery TOIROを開設しました。
10人の作家の作品を展示、販売し、ワークショップも開催できる場所です。陶芸、木工、金工、ガラス、アクセサリー。自分の足で作家を訪ね、会話を重ねるなかで、想いに賛同してくれた方たちが協力してくれました。
屋号は「十人十色」からつけました。さまざまな技術と体験が混ざりあって、ひとつのコミュニティになるといい。そんな想いをこめています。
デザイン事務所が店を持つのは、遠回りに見えたかもしれません。けれども私にとっては、図面を描くことと同じくらい大事な仕事でした。
03
北海道のクラフトがバルセロナへ
2014年には、北海道の作家の作品を持ってスペインに渡りました。きっかけはステンドグラス作家からの紹介です。「日本スペイン交流400周年記念事業」の認定を受け、バルセロナのAKASHI GALLERYで北海道クラフト展を開催。会場では、竹細工職人の山根広充さんと、ギャラリーでも人気だった「竹を編む。」ワークショップも行いました。
言葉が通じなくても、手を動かしていると人は集まってきます。その様子は現地の新聞にも取り上げられました。ものづくりは人をつなぐという直感が、海の向こうでも確かめられた出来事でした。
04
カフェになり建物とともに閉じた
翌年の2015年、事務所の移転に合わせて、カフェを併設したTOIROをオープンしました。取り扱う作家は30人を超えました。カフェでは作家のカップを選んでコーヒーを飲めます。実際に使ってみて、気に入ってから購入できるようにしたのです。
月に一度、発酵食の専門家と一緒に「紡ぐカフェ」というイベントも開催しました。健康的な料理を囲んで、たくさんの人が集まります。ワークショップも定期的に続け、ものづくりを通して交流が生まれる場所になりました。
ですが、2017年に閉店。建物が古くなって建て替えが決まり、立ち退くことになったからです。続けたくても続けられないことがある。場所を持ち、続けていく難しさを、このとき知りました。
05
場所がなくなりPOP UPへ
コミュニティの場所はなくなりました。それでも、北海道のものづくりを世界へ広めたい。名称をTOIRO HOKKAIDOに変え、発信と支援に力を入れよう。そう考えていた矢先、札幌駅直結の商業施設、札幌ステラプレイスから声がかかりました。
POP UPイベントでは作品の紹介と販売に加えて、ワークショップも開催しました。このPOP UPが、のちのギフトショップにつながっていきます。
06
人とものとコトをつなぐ
ギャラリー、カフェ、POP UP。場所もかたちも変わりましたが、やっていたことは同じでした。つくる人と使う人をつなげること。そして、ものの向こうにある体験まで届けることです。独立のときに掲げたコンセプトのままでした。
この活動があったから、ambientは図面やロゴを納めて終わるデザイン事務所にはなりませんでした。場所を失って、続けることの難しさも知りました。だからいま私たちは、人とものとコトをつなぎ、それが続いていくところまでを仕事にしています。「つづくをつくる」という言葉は、ここから来ています。