部屋に通されてお茶をいれると、そばに小さな菓子が添えてあります。阿寒湖畔の宿、あかん鶴雅別荘 鄙の坐では、その部屋菓子を宿だけのオリジナルにすることになりました。海外のお客様にも馴染みがありつつ、和も感じるようなお菓子づくりと、どんな名前と包みなら鄙の坐の菓子だと感じてもらえるか。そこからの相談でした。
はじめに、デザインの条件を3つに整理しました。鄙の坐らしいこと、部屋の設えになじむこと、そして部屋で過ごした時間を思い出せることです。次に、阿寒の自然や数寄屋建築、窓が切り取る景色など、宿から連想する言葉を書き出しました。私たちは、かたちを考える前にらしさを言葉でそろえておくことが大切だと考えています。名前は宿の名を受けて「鄙の菓(ひなのか)」としました。
個包装は、味ごとに日本の伝統色を1色ずつあてました。抹茶は草色、フロランタンショコラは柿渋色、きな粉と胡麻は青鈍です。マットな質感の袋には透明な窓を残し、中の菓子が見えるようにしています。部屋では器にのせ、お品書きのような栞を添えて出す想定です。みやげ用の箱には、阿寒湖の氷の花、フロストフラワー(厳冬期にだけ現れる神秘的な氷の結晶です)をモチーフにした帯を巻き、包装しなくても贈りものになるように工夫しました。
貼箱には、あえてロゴも商品名も刷っていません。食べ終えたあとも、旅の思い出をしまう小箱として使ってもらうためです。部屋で味わった菓子がみやげになり、箱は家に残ります。阿寒で過ごした時間を、帰ってからもふと思い出してもらえたらと願っています。